BCMSにおける価値提供の再検証に基づく経営レジリエンス戦略の理論構築
更新日:6月27日

BCMSにおける価値提供の再検証に基づく経営レジリエンス戦略の理論構築*BCMSにおける価値提供の再検証に基づく経営レジリエンス戦略の理論構築 BCM
Sにおける価値提供の再検証に基づく経営レジリエンス戦略の理論構築
著者:森 清正(STF)
2026年3月28日
要旨
本研究の目的は、ISO 22301:2019 に基づく事業継続マネジメントシステム(BCMS)の成果物を、価値提供の観点から再検証し、事業継続を経営成果へ接続する理論的枠組みとして「経営レジリエンス戦略」を構築することにある。BCMS は、事業の中断・阻害インシデントに対して、製品・サービスの提供を継続し、許容可能な時間内で回復するための管理策及び能力を整備する枠組みである。しかし、実務においては、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略、BCP などの成果物が、業務オペレーションの継続・復旧に偏りやすく、「継続して製品・サービスを提供する」という要求に内在する価値の側面が十分に可視化されていないという課題がある。
本研究では、まず先行研究及び ISO 22301:2019 の要求事項と便益を整理し、BCMS が本来、戦略目標の支援、競争優位性、評判・信用の保護強化、利害関係者の信頼といった経営的便益を含意していることを確認した。そのうえで、東日本大震災及び熊本地震等で被災しながら再建した企業事例を分析し、企業の再起を支えた源泉が、単なる設備復旧力ではなく、事業モデル転換力、高付加価値再定義力、人・技能・ナレッジ再起動力、関係資本活用力、社会的価値提案力等にあることを示した。
これらを踏まえ、本研究は経営レジリエンス戦略を、BCMS の成果物を基礎としつつ、インシデント発生後に変化した顧客、市場、社会に対して、自社の有形・無形資源、能力、ナレッジ及び関係資本から、誰に何をどのような価値として提案するかを定め、信頼の維持及び向上を図るための戦略的設計機構として定義した。理論モデルは、①BCMS成果物、②外部環境変化の再検証、③RBVに基づく経営レジリエンス源泉の把握、④機能別活用分析による機能把握・機能転用・価値創造可能性の抽出、⑤Effectuation、Lean、Agile による価値提案の構想・絞り込み・改善、⑥提案価値の設計、⑦信頼維持・向上と次期計画への反映、の七層から構成される。
さらに、仮想企業ケースとして坂本化粧品株式会社を対象に、南海トラフ巨大地震を想定したケーススタディーを行い、本理論モデルの適用可能性を検証した。その結果、BCMS によって「どのように戻すか」を整理したうえで、そこからさらに「誰に、何を、どのような価値として提案するか」を導き出すことが可能であり、経営レジリエンス戦略は、BCMS 実務の外部にある別理論ではなく、BCMS が本来持つ便益を、価値提供、信頼維持・向上、競争優位形成の観点から実務的に回収するための設計機構として機能しうることが示された。
本研究の意義は、第一に、BCMS と経営戦略のあいだに存在していた理論的空白を埋め、BCMS 成果物を価値提供へ接続する枠組みを提示した点にある。第二に、災害後再建企業の実践を、価値提案の再構成という共通構造で再解釈した点にある。第三に、RBV、機能別活用分析、Effectuation、Lean、Agile を組み込むことで、価値の源泉把握から実装可能性、動的改善までを含む方法論として経営レジリエンス戦略を整理した点にある。今後は、複数の実在企業への適用を通じて、その有効性及び一般化可能性を検証することが課題である。
第1章 序章
1.1 研究背景
ISO 22301:2019 に基づく事業継続マネジメントシステム(Business Continuity Management System: BCMS)は、事業を中断又は阻害するインシデントの発生時においても、組織が製品及びサービスの提供を継続し、許容可能な時間内に回復するための管理策及び能力を準備し、提供し、維持することを目的とする枠組みである。BCMSの実践においては、事業影響度分析(Business Impact Analysis: BIA)及びリスクアセスメントを通じて、優先事業活動、時間要求、必要資源、依存関係、ボトルネック等を把握し、それらを基礎として事業継続戦略、事業継続計画(Business Continuity Plan: BCP)、手順、体制、演習及び継続的改善を構築する。
このようにBCMSは、インシデント発生時の事業継続能力を体系的に整備するうえで有効な枠組みである。しかし、実務においてBCP策定及びBCMS運用を進める過程では、その重点が業務オペレーションの継続及び復旧に収斂しやすい。すなわち、どの設備を復旧するか、どの要員を確保するか、どの拠点を代替するか、どの手順によって再開するかといった実行手段の整備が中心となり、「継続して製品・サービスを提供する」という要求の中に本来含まれている価値の側面が、十分に分析及び戦略化されないまま残される傾向がある。
一方、ISO 22301:2019 は、BCMSの便益として、戦略目標の支援、競争優位性の確立、評判及び信用の保護・強化、利害関係者に対する信頼の提供、組織レジリエンスへの寄与を示している。すなわち、BCMSは本来、単なるオペレーション復旧の仕組みにとどまらず、組織の経営的成果にも接続されるべきものである。しかし実務においては、その便益が必ずしも十分に回収されていない可能性がある。
さらに、大規模災害後の企業再建事例をみると、企業が生き残る要因は、施設・設備の復旧や操業再開のみでは説明できない。販路転換、新商品開発、既存事業の価値再定義、地域社会との関係再構築、技能・ナレッジの活用、外部連携の再編等を通じて、変化した顧客・市場・社会に対して新たな価値提案を行った企業が再建を果たしている。したがって、事業継続を真に経営に結びつけるためには、BCMSの成果物を前提としつつ、それを価値提供の観点から再検証する理論的枠組みが必要である。
1.2 問題意識
本研究の問題意識は、BCMS/BCPの実務が業務オペレーションの継続及び復旧に偏重しやすいことにより、「継続して製品・サービスを提供する」という要求の中に内在する価値の次元が十分に可視化されていないのではないか、という点にある。
事業を再開することは、単に設備を復旧し、作業を再開し、出荷を再開することと同義ではない。とりわけ大規模災害後においては、顧客ニーズ、市場環境、競争条件、社会的要請が変化するため、再開後にどのような価値を、誰に対して、どのように提示するかを再構成しなければ、継続的な生存と成長には結びつかない。ところが、従来のBCMS/BCP実務では、この問いが体系的に扱われてこなかった。
このことは、被災後に再建した企業の事例によっても裏づけられる。販路を転換した企業、高付加価値化によって市場に再進出した企業、技能・経験を起点に再起した企業、社会的支援を通じて信頼を強化した企業等は、いずれも単なるオペレーション復旧ではなく、価値提案の再構成によって生き残っている。したがって、事業継続実務の中心に「価値提供」の視点を再導入することが必要である。
1.3 先行研究との差分
事業継続マネジメント及び組織レジリエンスに関する先行研究は、主として、BCM/BCMSを中断時の継続能力確保の体系として扱う研究、組織レジリエンスを適応能力・回復能力として捉える研究、及び震災後の企業復興を事例的に記述する研究に分けられる。
これらの研究はそれぞれ有益であるが、なお二つのギャップが存在する。第一に、BCMS/BCP の分析枠組みと、被災企業が実際に行った価値提案の再構成とを、同一理論の中で接続して論じる研究は限定的である。第二に、被災後の企業再建において重要であった技能、ナレッジ、関係資本、価値基準の再定義、地域との関係、社会的役割の再構成等を、BCMSにおける「製品・サービス継続」の価値側面として再解釈し、マネジメントシステムへ接続する理論的枠組みは十分に提示されていない。
本研究は、このギャップに対し、BCMS/BCP の成果物と被災後再建企業の実践とを媒介し、「製品・サービスに内在する価値」を明示的に理論化することで差分を有する。
1.4 本研究の位置づけ
本研究は、ISO 22301:2019 に基づく BCMS を基礎としつつ、その成果物及び運用結果を価値提供の観点から再検証する「経営レジリエンス戦略」という概念を提示するものである。
ここでいう経営レジリエンス戦略とは、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略、BCP、演習・評価の結果を踏まえ、インシデント発生後に変化した顧客、市場及び社会に対し、自社の経営資源、組織能力、ナレッジ、関係資本から、誰に何をどのような価値として提案するかを定め、信頼の維持及び向上を図るための戦略的設計機構である。
本研究は、経営レジリエンス戦略をBCMSの外側に独立した別個のマネジメントシステムとしてではなく、BCMSが本来持つ便益を具体的に回収するための補完的機構、特にBCMSのCheck及びActから次期Planへ至る再検証・反映の機構として位置づける。
1.5 研究目的
本研究の目的は、ISO 22301:2019 に基づく BCMS/BCP 実務において見落とされやすい「製品・サービスに内在する価値」の側面を明示的に捉え直し、それを顧客・市場・社会への価値提供という観点から再検証する理論的枠組みとして、「経営レジリエンス戦略」を提示することである。
具体的には、以下を目的とする。
第一に、BCMS/BCP実務が業務オペレーション復旧中心に収斂しやすい構造を理論的に整理すること。
第二に、ISO 22301:2019 が想定する便益と、実務におけるオペレーション偏重との間に存在するギャップを明らかにすること。
第三に、震災後に再建した企業事例を分析し、企業が生き残るために必要であった価値提案、信頼維持、競争優位形成の実践を抽出すること。
第四に、これらを踏まえ、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証し、次の方針・目的・戦略・計画へ反映する「経営レジリエンス戦略」の構造を提示すること。
1.6 研究課題
本研究では、以下の研究課題を設定する。
研究課題1
ISO 22301:2019 に基づく BCMS/BCP 実務は、なぜ業務オペレーションの継続・復旧に偏りやすいのか。
研究課題2
「継続して製品・サービスを提供する」というBCMSの要求のうち、実務で見落とされやすい価値の側面とは何か。
研究課題3
大規模災害後に再建した企業は、施設復旧や操業再開にとどまらず、どのような価値提案の再構成を行っていたのか。
研究課題4
その価値提案の再構成を、BCMSの成果物及びPDCA運用へ接続する理論的枠組みとして、経営レジリエンス戦略をどのように定義・位置づけることができるか。
研究課題5
経営レジリエンス戦略を、BCMSのPlan-Do-Check-Actの中でどの段階に位置づけることが、最も理論的整合性と実務的有用性を持つか。
1.7 研究仮説
本研究では、以下の仮説を設定する。
仮説1
BCMS/BCP実務は、規格上は戦略目標、競争優位、評判・信用、利害関係者の信頼を便益として含意しているにもかかわらず、実務上は業務オペレーションの継続・復旧に偏重する傾向がある。
仮説2
「継続して製品・サービスを提供する」という要求の中には、オペレーションの継続だけでなく、顧客・市場・社会に対する価値の継続及び再提示が含まれているが、この側面はBCMS/BCP実務において十分に明示化されていない。
仮説3
大規模災害後に再建した企業の生存要因は、単なる施設復旧力や手順整備力ではなく、外部環境変化を読み、自社の人的資源、ナレッジ、関係資本、価値基準を再編して、顧客・市場・社会に対する価値提案を再構成した点にある。
仮説4
経営レジリエンス戦略は、BCMSの外部に独立した上位マネジメントシステムとしてではなく、BCMSの成果物及び演習結果を価値提供の観点から再評価し、次のPlanへ反映する再検証機構として位置づけることが最も妥当である。
仮説5
経営レジリエンス戦略をBCMSのCheckおよびActにおける評価・改善機構として組み込むことにより、BCMSが本来想定している便益を実務上より有効に回収できる。
1.8 研究方法
本研究では、概念研究と事例研究を組み合わせた質的研究アプローチを採用する。
1.8.1 規格文献及び関連文献の分析
まず、ISO 22301:2019 の要求事項、特に事業継続方針、事業継続目的、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略・解決策、計画・手順、評価及び改善に関する条項を分析し、BCMS が本来対象とする範囲と便益を整理する。あわせて、組織レジリエンス、災害後企業復興、価値共創、競争優位、信頼形成等に関する先行研究をレビューし、本研究の理論的位置づけを明確化する。
1.8.2 被災企業事例の再解釈
次に、東日本大震災及び熊本地震等で被災しながら再建を果たした企業事例を対象に、
· 被害状況
· 再開過程
· 外部環境変化
· 提案価値の再構成
· 信頼維持・向上の仕組み
という観点から再整理を行う。事例は、単なる成功物語としてではなく、「何が経営レジリエンスの源泉となったか」を抽出するための経験的材料として位置づける。
1.8.3 概念モデルの構築
規格分析及び事例分析から得られた知見をもとに、
· BCMSの成果物
· 価値提供の再検証
· 顧客・市場・社会への提案価値
· 信頼維持・向上
· 次期計画への反映
を接続する概念モデルとして、「経営レジリエンス戦略」の構造を構築する。
1.8.4 ケーススタディーによる適用可能性検証
さらに、本研究では、理論モデルの適用可能性を検討するために設定した仮想企業ケースを用いて、PEST分析、3C分析、災害時SWOT分析、災害時クロスSWOT分析、提案価値発想、提案価値評価・採用判定、戦略整理シート等を展開し、経営レジリエンス戦略の実務適用可能性を確認する。
1.9 本論文の構成
本論文は、以下の構成をとる。
第1章では、研究背景、問題意識、先行研究との差分、本研究の位置づけ、研究目的、研究課題、研究仮説及び研究方法を示す。
第2章では、ISO 22301:2019 に基づく BCMS の構造と便益を整理し、BCMS/BCP実務が抱えるオペレーション偏重の問題を検討する。
第3章では、震災後に再建した企業事例を分析し、経営レジリエンスの源泉類型を整理する。
第4章では、BCMSの成果物を価値提供の観点から再検証する枠組みとして、経営レジリエンス戦略の理論モデルを提示する。
第5章では、仮想企業ケースを用いたケーススタディーを通じて、その適用可能性を示す。
第6章では、研究成果を総括し、実務的示唆及び今後の課題を示す。
第2章 ISO 22301:2019 BCMSの構造と便益、および実務上の限界
2.1 ISO 22301:2019 におけるBCMSの基本構造
ISO 22301:2019 に基づく事業継続マネジメントシステム(Business Continuity Management System: BCMS)は、破壊的インシデントに対して、組織が製品及びサービスの提供を継続し、回復するための能力を、マネジメントシステムとして計画、確立、実施、運用、監視、レビュー、維持及び継続的改善するための要求事項を示すものである。ISOの公開説明によれば、本規格は PDCA モデルを適用し、BCMS を「plan, establish, implement, operate, monitor, review, maintain and continually improve」する枠組みとして構成している。 ((ISO, 2019))
この構造において、運用面の中核となるのが第8章である。ISO 22301:2019 では、8.2 に「Business impact analysis and risk assessment」、8.3 に「Business continuity strategies and solutions」、8.4 に「Business continuity plans and procedures」、8.5 に「Exercise programme」が置かれている。BSI の 2019 年版解説でも、2019 年版では 8.3 において「business continuity strategy and solutions」がより明示的に整理され、8.4 では plans と procedures の連関が明確化されたとされている。 ((ISO, 2019))
したがって、BCMS の基本構造は、BIA とリスクアセスメントを通じて中断影響と必要条件を把握し、それに基づき事業継続戦略及び解決策を定め、さらに事業継続計画と手順へ落とし込み、演習と評価を通じて改善するという連鎖によって成り立っていると理解できる。これは、単なる計画書作成ではなく、分析、戦略、計画、訓練、改善を一体的に運用する管理システムである。 ((ISO, 2019))
2.2 BCMSにおけるBIA、リスクアセスメント、戦略・解決策の位置
ISO 22301:2019 において、BIA とリスクアセスメントは、事業継続活動を構成する基礎分析として位置づけられている。BIA は、中断・阻害が組織に与える影響を把握し、時間関連要求や優先順位を明らかにする機能を担う。リスクアセスメントは、破壊的インシデントに関する脅威や脆弱性、影響の可能性を把握し、事業継続の観点から必要な対応を検討するための基礎となる。ISO の公開説明では、BCMS はリスクの把握、緊急時への備え、回復時間の改善に有効であるとされている。 ((ISO, 2019))
この結果を受けて定められるのが、8.3 における事業継続戦略及び解決策である。BSI の解説では、2019 年版において戦略と解決策の位置づけがより明確に整理され、資源要求や解決策の実装が明示的に扱われるようになったことが指摘されている。これは、BCMS が単に分析結果を保持するだけでなく、分析結果を具体的な継続・復旧能力へ変換する仕組みであることを示している。 ((BSI, 2019))
さらに、それらの戦略及び解決策は、8.4 の事業継続計画及び手順に具体化される。2019 年版では、plans は「the delivery of products and services consistent with its business continuity objectives」という表現と結び付けて整理されており、計画とは、単に手順を並べたものではなく、事業継続目的と整合した形で製品・サービス提供を維持するための実施枠組みであることが示唆される。 ((BSI, 2019))
このように見ると、BCMS は、BIA、リスクアセスメント、戦略・解決策、計画・手順を通じて、事業継続能力を具体化していく構造を持つ。しかし同時に、この構造は、実務において特定の方向へ重心が偏りやすい性格をもっている。
2.3 ISO 22301:2019 が想定する便益
ISO 22301:2019 は、BCMS を単なる対応手順の整備規格としてではなく、組織に多面的な便益をもたらす仕組みとして位置づけている。ISO の公開説明では、本規格の重要性として、組織レジリエンスの向上、リスクマネジメントの改善、危機への体系的対応、利害関係者からの信頼向上が挙げられている。 ((ISO, 2019))
また、あなたが着目している 0.2 に相当する便益の整理は、BCMS が少なくとも次の領域に関わることを示している。第一に、戦略目標の支援、競争優位性の確立、評判及び信用の保護・強化といった、経営的成果との接続である。第二に、法的及び財務的影響の低減、直接・間接コストの抑制といった、財務的側面である。第三に、生命、財産及び環境の保護、利害関係者の期待への配慮、組織への信頼提供といった、利害関係者との関係性である。第四に、内部プロセスの有効性維持、リスク管理策の提示、脆弱性対応といった、組織内運用の側面である。これらは、BCMS が本来、オペレーション復旧のみならず、広く経営及び信頼形成に資する枠組みであることを意味している。 ((ISO, 2019))
したがって、規格趣旨から見れば、BCMS の成果は、単なる設備復旧や作業再開に限定されるものではない。むしろ、事業継続を通じて、戦略目標、競争優位、評判・信用、利害関係者信頼といった上位の便益へ結びつくことが期待されているのである。 ((ISO, 2019))
2.4 実務においてBCMSがオペレーション復旧中心になりやすい理由
しかしながら、規格がこのような便益を想定しているにもかかわらず、実務において BCMS/BCP が業務オペレーションの継続及び復旧に偏りやすいのには理由がある。
第一に、BIA とリスクアセスメントが、時間要求、必要資源、依存関係、ボトルネックの特定へと収斂しやすいためである。実務上、BIA は優先事業活動、目標復旧時間、最大許容停止時間等の設定へ結びつき、リスクアセスメントは設備、人員、情報、拠点、物流等への影響分析として運用されることが多い。そのため、分析結果は自然に「何をどの順で戻すか」という復旧設計へ流れやすい。規格上も、8.2 と 8.3 の連関は、分析から戦略・解決策への接続として整理されている。 ((ISO, 2019))
第二に、8.4 の計画及び手順が、どうしても「実行可能な対応」を求めるためである。実務で BCP を作成する際には、責任者、連絡先、代替拠点、手順、資源調達、復旧順序など、具体的で検証可能な項目が前面に出る。これは当然必要なことであるが、その反面、「顧客にとっての価値がどう変わるか」「再開後に何を提案するか」といった問いは、手順化しにくいため後景に退きやすい。BSI が指摘するように、2019 年版は文書化要求をやや柔軟にしたものの、plans and procedures 自体は依然として response と recovery を支える性質をもつ。 ((BSI, 2019))
第三に、演習や検証が、復旧時間や手順遵守、意思決定速度といった運用指標に偏りやすいことである。ISO 22301:2019 は 8.5 に exercise programme を置き、BCMS の有効性確認を重視しているが、実務では演習評価が「手順どおり動けたか」「連絡体制は機能したか」「目標時間内に復旧できたか」に集中しやすい。これにより、製品・サービスが顧客、市場、社会に対して持っていた価値そのものが、十分に評価軸へ組み込まれない場合がある。 ((ISO, 2019))
以上の理由により、BCMS は規格趣旨としては広い便益を想定しているにもかかわらず、実務では「業務オペレーションを継続・復旧する仕組み」として理解・運用されやすい。このことが、規格の便益と実務成果との間にギャップを生じさせる。
2.5 「製品・サービス」のうち見落とされやすい価値の次元
このギャップの核心は、「継続して製品・サービスを提供する」という文言の解釈にある。実務では、しばしば「製品・サービスの提供」は、製造、出荷、販売、連絡、物流といったオペレーションの継続として理解される。しかし本来、製品及びサービスは、単なる物理的供給の対象ではなく、顧客、市場、社会に対する価値の媒介である。
たとえば、化粧品を継続して提供するとは、単に工場を復旧し、容器を調達し、出荷を再開することだけではない。それは、顧客にとってその化粧品が美容価値として意味を持つのか、生活維持価値として意味を持つのか、あるいは安心感や誠実な対応の象徴として受け取られるのか、といった価値の再構成を伴いうる。同様に、食品を継続して提供することも、単なる供給再開ではなく、安全性、地域性、物語性、生活支援性といった価値の変容を含む。したがって、「製品・サービス継続」の問題は、本来、オペレーション継続の問題であると同時に、価値継続の問題でもある。
しかし、BCMS 実務がオペレーション復旧へ偏る場合、この価値の次元は明示的に扱われにくい。結果として、組織は「どのように戻すか」には答えられても、「戻した後に何を価値として提示するのか」には答えにくい状態に陥る。ここに、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証する必要性が生じる。
2.6 震災後再建企業の事例が示すもの
この必要性は、震災後に再建した企業の事例によって経験的に裏づけられる。東日本大震災後、復興庁は被災企業支援の重点が、ハード面の復旧から、販路開拓、新事業立上げ、新商品開発等のソフト面支援へ移行したと整理している。これは、再建にとって重要なのが単なる再開ではなく、変化した市場・社会に対する価値再構成であることを示している。 ((ISO, 2019))
実際、小野食品は工場の大きな被害を受けた後、震災前の BtoB 中心構造を維持するのではなく、通販を軸とする BtoC への転換を通じて再建した。北三陸天然市場は、震災後に「安心・安全で魚本来の味を活かした商品づくり」を前面に出し、高付加価値商品へ進んだ。ささ圭は設備やレシピを失った後も、会長の知る製法と金串を起点に、手作り価値を再起動した。これらの事例が示すのは、企業が生き残るために必要なのが、オペレーション復旧そのものではなく、外部環境の変化の中で、自社の強み、人、ナレッジ、関係性をどのような価値提案へ変換できるかであるということである。これらの事例は先に確認した震災後再建事例の整理とも整合する。 ((ISO, 2019))
したがって、BCMS の成果物を単なる復旧計画にとどめず、価値提供の観点から再検証する理論的機構が必要であるという問題設定は、実務上の違和感だけでなく、経験的事例によっても支持される。
2.7 本章のまとめ
本章では、ISO 22301:2019 における BCMS の構造と便益を整理したうえで、実務上の限界を検討した。BCMS は、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略・解決策、計画・手順、演習、改善を通じて、破壊的インシデント時の継続能力を整備する体系であり、その便益として、戦略目標、競争優位、評判・信用、利害関係者信頼、組織レジリエンスが想定されている。 ((ISO, 2019))
しかし実務では、その運用が業務オペレーションの継続及び復旧に偏りやすく、「継続して製品・サービスを提供する」という要求のうち、製品・サービスに内在する価値の次元が十分に可視化されていない。ここに、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証し、顧客、市場、社会への提案価値として再構成する理論枠組みの必要性がある。次章では、この必要性を具体化するために、震災後に再建した企業事例を再分析し、経営レジリエンスの源泉を類型化する。
第3章 震災後再建企業の事例分析と経営レジリエンスの源泉類型
3.1 本章の目的
前章では、ISO 22301:2019 に基づく BCMS が本来広い便益を想定しているにもかかわらず、実務では業務オペレーションの継続・復旧に偏りやすく、その結果として「継続して製品・サービスを提供する」という要求の中に内在する価値の側面が十分に顕在化していないことを示した。これを受けて本章では、実際に大規模地震等で被災しながらも再建を果たした企業事例を分析し、そこに共通する再起の源泉を抽出する。目的は、災害後に企業が生き残る要因を、単なる復旧力ではなく、価値提案の再構成能力として把握し、それを後続章で提示する「経営レジリエンス戦略」の経験的基盤とすることである。復興庁は東日本大震災後、被災企業の課題がハード復旧から販路開拓、新事業立上げ、新商品開発といったソフト面へ移行したことを整理しており、本章の問題設定はその実態とも整合する。 ((復興庁, 2021))
3.2 分析視点
本章では、各事例を以下の五つの視点で再整理する。
第一に、被害の性質である。ここでは施設、設備、在庫、情報、人的基盤、流通経路など、何が失われたかを確認する。第二に、再開の契機である。何が企業を再起に向かわせたのか、どの資源が再開の起点となったのかを把握する。第三に、外部環境変化である。顧客、市場、地域社会が被災後にどのように変化したかをみる。第四に、提案価値の再構成である。企業が、誰に、何を、どのような価値として提示し直したのかを整理する。第五に、信頼維持・向上への作用である。その価値提案が、顧客・取引先・地域社会に対してどのような信頼効果を持ったのかを検討する。これにより、各事例を単なる復旧事例ではなく、経営レジリエンスの源泉がどのように価値へ変換されたかを示す事例として読み直す。こうした視点は、復興庁が示す「販路・新事業・新商品」への移行とも、J-Net21 における各社の再建ストーリーとも整合する。 ((復興庁, 2014))
3.3 事例分析
3.3.1 小野食品:事業モデル転換を通じた再建
小野食品は、東日本大震災により第1工場と竣工したばかりの大槌工場が全壊し、在庫や原材料も流出するなど、4億円を超える被害を受けた。しかし同社は、残存工場の復旧を進め、被災から100日後に事業を再開している。重要なのは、その後の展開である。震災前の事業の柱であった業務用商品の売上が回復しない中で、同社は通販事業へ活路を見いだし、BtoB中心の事業構造をBtoCへ転換した。ここで再建の源泉となったのは、単なる工場再稼働能力ではなく、販路構造を組み替える力であった。すなわち、小野食品は、再開後の市場環境の変化を踏まえ、既存の事業価値を新たな顧客接点において再提示したのである。この事例は、経営レジリエンスの源泉が「元に戻す力」にとどまらず、「誰に価値を届けるかを変える力」にあることを示す。 ((復興庁, 2014))
3.3.2 北三陸天然市場:高付加価値再定義による再建
北三陸天然市場は、店舗自体は津波の直接被害を免れたが、沿岸部の冷蔵庫が流失し、あわびや海藻等の原料を1年分失ったうえ、風評被害や原料高騰にも直面した。同社は、そのような状況下で、単に既存商品の復旧を目指すのではなく、「安心・安全で魚本来の味を活かした商品づくり」という価値基準をより鮮明に打ち出し、保存料を使わない干物やハーブを用いた加工品など、高付加価値の商品開発に進んだ。ここで重要なのは、同社が被災後の市場に対して、単に「魚介を販売する会社」としてではなく、安心・安全と本来の味を提案する会社として自らを再定義した点である。この事例は、経営レジリエンスの源泉として、既存事業の意味を組み替える価値基準の再定義力が重要であることを示している。 ((復興庁, 2014))
3.3.3 松島蒲鉾本舗:地域存在意義の再設計
松島蒲鉾本舗は、店舗・工場ともに震災で被害を受け、とくに塩竈工場は津波により壊滅状態となった。その後、同社は3か月後の生産再開を目指して復旧を進めるとともに、多賀城市に新工場を建設したが、注目すべきはその後に掲げた「松かまビジョン2020」である。同社は、ブランド向上、魚食文化の普及、地域に貢献し地域に愛される企業を明確に打ち出し、工場見学、体験、地域イベント参加、出前授業などを通じて、地域における自社の存在意義を再設計した。ここで再建の源泉となったのは、製品の製造能力だけでなく、地域社会における企業の役割を再構成する力であった。この事例は、経営レジリエンスが「何を売るか」だけではなく、「地域にとってどのような存在であるか」を含むことを示している。 ([J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]][3])
3.3.4 ささ圭:人・技能・記憶による再起
ささ圭は、津波によって製造設備、レシピ、顧客・取引先情報を失い、当初は廃業も考えたとされる。しかし、工場跡地から掘り起こした約3000本の金串と、当時89歳であった会長の知る昔ながらの製法を起点に、残った店舗を改造して手作り工房を開き、100%手作りの笹かまぼこを発売した。その後、新本社工場建設へと再建を進めている。この事例の特異性は、再起の源泉が設備やマニュアルではなく、人間の技能、経験、記憶、暗黙知であった点にある。すなわち、経営レジリエンスの源泉は、物的資源ではなく、何か価値あるものを生み出す人の力そのものに宿りうる。この事例は、本研究の問題意識を最も象徴的に裏づける。 ([J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]][4])
3.3.5 再春館製薬所:社会的価値の提案による信頼形成
再春館製薬所は、熊本地震により営業停止と出勤率低下に直面したが、4月25日にはコールセンター営業を再開し、工場も可能な範囲から製造を再開した。同時に同社は、避難所支援や寄付等を行い、「被災地の会社だからこそ、地域のために。熊本とともに復興を」という姿勢を明示した。ここで注目すべきなのは、同社が事業再開と並行して、地域社会そのものに対する価値提案を行ったことである。すなわち、再建の源泉は単なる商品供給力だけでなく、企業の社会的存在意義を行動として示す力であった。この事例は、経営レジリエンスの源泉として、社会的価値提案力が信頼形成に寄与することを示している。 ((内閣官房, 2016))
3.3.6 お茶の富澤:新用途・新商品の創出
お茶の富澤は、熊本地震により店舗が全壊し、販売を仮設店舗とインターネット通販へ移して事業継続を図った。同時に同社は、若年層の緑茶離れという構造的課題を踏まえ、県内の味噌・醤油メーカーと共同で「くまもとのお茶 まるごとドレッシング」を開発した。これは、従来のお茶販売という枠を超え、お茶を別用途・別市場向けの商品へ変換したものである。したがって、この事例が示す経営レジリエンスの源泉は、既存資源をそのまま守ることではなく、既存資源を新用途・新商品へ転換する発想力にある。 ([J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]][6])
3.3.7 サンブライト:関係資本による継続性確保
サンブライトは、東日本大震災後、自社単独での生産再開が危ぶまれる中、主要取引先である大手カメラメーカーの働きかけにより、競合金属加工会社がサンブライト向け部品を代替生産し、サンブライト名義で納品できる体制が整えられた。その後、同社は新工場建設へと進んだ。この事例において、継続の源泉は内部資源ではなく、取引先との信頼関係や競合も含めた関係資本にあったといえる。つまり、経営レジリエンスは、企業内部だけでなく、「誰と組めるか」「誰が支えてくれるか」という外部との関係性によっても成立する。 ([J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]][6])
3.4 経営レジリエンスの源泉類型
以上の事例分析を踏まえると、震災後再建企業に共通する経営レジリエンスの源泉は、以下のように類型化できる。
第一に、事業モデル転換力である。これは、小野食品のように、顧客接点、販路、収益構造を組み替えて生き残る力である。第二に、高付加価値再定義力である。これは北三陸天然市場や松島蒲鉾本舗のように、既存事業の意味を再定義し、新たな評価軸で価値を提示する力である。第三に、人・技能・ナレッジ再起動力である。ささ圭が示したように、技能、経験、記憶、暗黙知が再起の核となる。第四に、関係資本活用力である。サンブライトのように、取引先、協力先、地域ネットワークとの関係を資源として用いる力である。第五に、社会的価値提案力である。再春館製薬所のように、商品供給にとどまらず、地域や社会への価値提案を通じて信頼を形成する力である。第六に、新用途・新商品創出力であり、お茶の富澤のように、既存資源を別の商品・別用途・別市場へ変換する発想力である。第七に、地域存在意義再設計力であり、松島蒲鉾本舗のように、自社が地域において果たす役割を再構成する力である。これらの類型は、企業が災害後に「何を止めず、どう戻すか」を超えて、「誰にどのような価値を提案するか」を再編する力として理解できる。 ([J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]][3])
3.5 本章の示唆
本章で確認した事例群は、企業が災害後に生き残るための要因が、単なるオペレーション復旧力では説明できないことを示している。むしろ、外部環境変化を読み、自社の人的資源、ナレッジ、関係資本、価値基準を再発見し、それを顧客・市場・社会に対する価値提案へ変換し直す能力が、再建の中核にある。したがって、「継続して製品・サービスを提供する」というBCMSの要求は、オペレーションの継続だけでなく、価値の継続、価値の再定義、価値の再提示として読み直される必要がある。
この点に照らすと、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証し、次の方針・戦略・計画へ反映する「経営レジリエンス戦略」という構想は、理論的思弁にとどまらず、震災後再建企業の実践と整合する経験的妥当性を持つといえる。すなわち、経営レジリエンス戦略は、被災企業の現実の行動パターンを抽象化し、BCMSと経営戦略の間に橋を架ける概念として位置づけることができる。復興庁が示した「ハード復旧からソフト支援への移行」という流れも、この理解を裏づけている。 ((復興庁, 2021))
3.6 本章のまとめ
本章では、東日本大震災及び熊本地震後に再建した企業事例を再分析し、経営レジリエンスの源泉を抽出・類型化した。各事例に共通していたのは、単に施設・設備を復旧したことではなく、外部環境変化を踏まえて、自社の強み、人、ナレッジ、関係性を、顧客・市場・社会に対する新たな価値提案へ変換した点である。したがって、企業の再建を支える真の源泉は、オペレーション復旧力そのものではなく、価値創出力の再起動能力であるといえる。
この知見は、本研究が提示する経営レジリエンス戦略の妥当性を支持する。すなわち、BCMSの成果物を価値提供の観点から再検証し、信頼維持・向上へつなげる戦略的設計機構は、震災後再建企業の実践から見ても必要性を有する。次章では、これらの事例分析をもとに、BCMSの成果物を価値提供の観点から再検証する枠組みとして、「経営レジリエンス戦略」の理論モデルを提示する。
第4章 経営レジリエンス戦略の理論モデル
4.1 本章の目的
前章では、震災後に再建した企業事例を通じて、企業の再起を支える源泉が、単なる施設・設備の復旧力ではなく、外部環境変化を読み、自社の強み、人、ナレッジ、関係性を価値提案へ変換する能力にあることを示した。これを受けて本章では、ISO 22301:2019 に基づく BCMS の成果物を、顧客・市場・社会への価値提供という観点から再検証し、次の方針・目的・戦略・計画へ反映する理論的枠組みとして、「経営レジリエンス戦略」の理論モデルを提示する。ISO 22301:2019 は BCMS の要求事項を定める規格であり、ISO 22336:2024 は組織レジリエンスの方針・戦略に関する指針を与えている。 ((ISO, 2019))
本章の特色は、BCMS の成果物を価値提供へ接続する過程を、複数の補助理論・補助枠組みによって体系化する点にある。第一に、Resource-Based View(RBV) を用いて、経営レジリエンスの源泉を有形・無形資源および能力の観点から理論的に整理する。第二に、機能別活用分析 を用いて、その源泉がどの組織機能を通じて価値提案へ変換されるのかを明確にし、同時に機能転用による新たな価値創造可能性を検討する。第三に、Effectuation、Lean、Agile を、提案価値を構想し、絞り込み、改善し続けるための実践原理として位置づける。Effectuation は不確実性下で手元資源と協力関係から可能性を広げる考え方として整理され、Lean Startup は継続的な検証と学習を重視し、Agile は変化への対応と継続的な価値提供を重視する。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
4.2 理論モデル構築の前提
本研究が提示する経営レジリエンス戦略は、BCMS を置き換える独立の上位マネジメントシステムではない。むしろ、BCMS に内在する「継続して製品・サービスを提供する」という要求のうち、実務で見落とされやすい価値の側面を明示化し、BCMS が本来想定する便益を実務上回収するための補完的設計機構として位置づけられる。ISO 22301:2019 は、組織が中断・阻害に備え、対応し、回復するための BCMS を要求事項として示している一方で、組織レジリエンスや利害関係者信頼の向上といった便益も示している。ISO 22336:2024 は、そうしたレジリエンスを支える方針・戦略の設計に焦点を当てている。 ((ISO, 2019))
したがって、本研究の理論モデルは、BCMS の成果物を否定するのではなく、それらを「何をどのように戻すか」という問いにとどめず、「再開後にどのような価値を維持し、再定義し、提案するか」という問いへ接続することを目的とする。ここでいう価値とは、製品・サービスの物理的供給にとどまらず、顧客、市場、社会に対して意味を持つ便益、安心、信頼、関係性、社会的役割を含む。
4.3 経営レジリエンス戦略の基本定義
本研究において、経営レジリエンス戦略は次のように定義する。
経営レジリエンス戦略とは、ISO 22301:2019 に基づく BCMS において実施される事業影響度分析、リスクアセスメント、事業継続戦略、BCP 及び演習・評価の結果を基礎とし、インシデント発生後に変化した顧客、市場、社会の状況を踏まえて、自社の有形・無形資源、能力、ナレッジ及び関係資本から、誰に何をどのような価値として提案するかを定め、その提案価値を実行可能な機能配置と戦術へ接続し、信頼の維持及び向上を図るための戦略的設計機構である。
この定義の第一の特徴は、経営レジリエンス戦略が BCMS の外部に独立して存在するものではなく、BCMS の成果物を前提とする点にある。第二の特徴は、対象が単なる復旧可能性ではなく、変化した顧客・市場・社会への価値提供である点にある。第三の特徴は、価値提案を構想するだけでなく、実行可能な機能配置と戦術へ接続する点にある。
4.4 理論モデルの構成要素
本研究の理論モデルは、七つの層から構成される。
4.4.1 基礎層:BCMS成果物
第一の層は、BCMS が生み出す基礎成果物である。ここには、BIA による優先事業活動、時間要求、必要資源、依存関係、リスクアセスメントによる脅威・脆弱性・影響認識、事業継続戦略及び解決策、BCP 及び手順、演習・評価結果が含まれる。ISO 22301:2019 は、BCMS を通じて組織が中断・阻害に備え、対応し、回復することを求めており、これらの成果物は「どの事業活動を、どの資源で、どの時間軸で継続・復旧するか」を明確にするための基盤である。 ((ISO, 2019))
ただし、この層だけでは、その再開が顧客・市場・社会にとってどのような価値を持つかは十分に示されない。したがって、BCMS 成果物は必要条件ではあるが、それだけでは経営的成果へ直結しない。
4.4.2 再検証層:外部環境変化の把握
第二の層は、インシデント発生後の外部環境変化を把握する再検証層である。ここでは、顧客、市場、競争条件、地域社会、行政、社会的期待がどのように変化したかを捉える。これは、BCMS の BIA やリスクアセスメントを否定するものではなく、それらを価値の側面から再解釈するための工程である。
ここでの分析視点は、「何が壊れたか」ではなく、「何が求められるようになったか」である。したがって、本層においては、PEST 分析、3C 分析、災害時 SWOT 分析等を通じて、変化した需要、評価軸、競争条件、社会的期待を明らかにする。
4.4.3 源泉層:RBVに基づく経営レジリエンス源泉の把握
第三の層は、自社の経営レジリエンスの源泉を把握する層である。ここでは、前章で整理した源泉類型を、RBV の観点から再整理する。すなわち、有形資源、無形資源、能力を区別し、それらがどのような価値創出可能性を持つかを把握する。
ただし、本研究における RBV の用い方は、平時の競争優位を説明する一般的な資源分析にとどまらない。災害後の文脈においては、BCMS における事業影響度分析およびリスクアセスメントの結果として、ボトルネックとなる資源、代替不可能な資源、代替可能ではあるが十分に機能しなかった資源が明らかになる。したがって、本層で問われるのは、単に「何を持っているか」ではなく、制約や喪失を踏まえたうえで、なお何が価値提供の源泉となりうるかである。RBV は、企業の内部資源と能力が価値創出の土台となることを説明する理論であり、本研究ではこれを災害後の文脈へ適用する。 ((Darden Ideas to Action, n.d.))
この視点に立つと、経営レジリエンスの源泉は、残存する設備や在庫のような有形資源のみならず、技能、経験、関係資本、品質保証能力、情報、信頼、ブランド、地域との結びつきといった無形資源や能力にまで広がる。したがって、本層の役割は、「何が残ったか」を列挙することではなく、何が失われ、何が制約され、何が代替不全であったかを踏まえたうえで、なお何が価値提供の源泉となるかを明らかにすることにある。
4.4.4 機能層:機能別活用分析
第四の層は、前層で把握された経営レジリエンス源泉を、実際の価値提案へ変換するための機能別活用分析の層である。本研究における機能別活用分析とは、RBV によって把握された有形・無形資源および能力が、どのような機能を有しているかを把握し、その機能が現在どのような行為を可能にしているかを確認したうえで、当該機能の転用可能性を検討し、新たな価値創造の可能性を抽出する分析である。
ここで重要なのは、本分析が単なる実行可能性確認にとどまらないという点である。すなわち、資源や能力は、それ自体として価値を持つのではなく、何らかの機能を果たすことによって価値へ転換される。したがって、本層では、既存資源の有無だけではなく、
· 今ある資源がどんな機能を有しているのか
· その機能を使ってどんなことができるのか
· その機能をどんなことに転用できるのか
· 転用した機能で何ができるのか、どんな価値を創出できるのか
を検討する。
たとえば、平時において「人を輸送する」という機能を担っていたバス車両は、災害後には「物資を輸送する」「待機場所として活用する」「避難支援の拠点となる」といった別の機能へ転用されうる。このとき、同じ有形資源であっても、どのような機能として再定義するかによって、創出される価値は大きく変化する。したがって、本層は、既存資源の機能転用可能性を通じて、新たな価値創出の可能性を構想する補助的戦略構築手法として位置づけられる。
さらに、その後段として、
· その価値創出に必要な機能は何か
· どの機能がすでに存在するか
· どの機能が不足しているか
· どの機能は外部連携によって補完できるか
を検討する。
この意味で、機能別活用分析は、前半で価値創造の発想を行い、後半で実行可能性を検証する二段構えの分析として理解される。
4.4.5 実践原理層:Effectuation、Lean、Agile
第五の層は、前層までで把握された源泉および機能転用可能性をもとに、具体的な提案価値を構想し、絞り込み、変化に応じて動かすための実践原理層である。ここでは、Effectuation、Lean、Agile を補助理論として位置づける。
まず、Effectuation は、不確実性の高い状況において、将来を予測し尽くすことを前提とせず、今ある資源、関係性、協力者、外部連携可能性から実行可能な行為を構想する原理として機能する。Darden による解説でも、Effectuation は予測よりもコントロール可能な手段から始めることを重視している。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
本研究の文脈では、前層で把握された資源と機能転用可能性を起点として、外部連携も含めながら、どのような価値提案の可能性があるかを広げる役割を担う。
次に、Lean は、広がった価値提案候補の中から、顧客・市場・社会にとって本質的な価値へ集中し、不要な要素を削ぎ落として優先順位を明確にする原理として機能する。ここでの Lean は、単なる工程管理ではなく、何を残し、何を捨て、どの価値に集中するかを決めるための原理である。Lean Startup は、継続的な検証と学習を通じて、どの仮説に集中するかを絞り込む方法論として提示されている。 ((The Lean Startup, n.d.))
必要に応じて Value Stream Mapping 等の具体手法を用いることにより、工程や流れの中でどの価値提案が実際に成立しうるかを検討することができるが、その上位には常に「本質的価値への集中」という Lean の考え方がある。
さらに、Agile は、採用候補として浮上した価値提案を固定的に扱うのではなく、実行後の外部環境変化、顧客反応、社会的要請の変化を踏まえて、提供価値の形や運用体制を継続的に修正する原理として機能する。Agile Manifesto とその原則は、変化への対応、継続的な価値提供、顧客との協働を重視している。 ((Agile Manifesto, 2001))
すなわち、Agile は、価値提案を一度定めて終わりにするのではなく、変化に応じて提供価値そのものとその提供方法を変えていくための原理である。
したがって、本層における三者の役割は、
· Effectuation が価値提案の可能性を広げる
· Lean がその中から本質的価値へ集中する
· Agile が実行後の変化に応じて価値提案と体制を修正する
という関係として整理できる。
この意味で、本層は、あらゆる価値提案をいかに作り出し、絞り込み、動的に運用するかを担う層である。
4.4.6 構想層:提案価値の設計
第六の層は、前層までで構想され、絞り込まれ、実行可能性が検討された価値提案候補について、どの価値提案を戦略として採用するかを決定する層である。
ここでは、単に価値提案を発想すること自体が目的ではない。むしろ、外部環境変化、経営レジリエンス源泉、機能別活用分析、Effectuation・Lean・Agile による実践的検討を踏まえたうえで、最終的に、
· 誰に対する価値提案か
· どのような価値内容か
· なぜその価値が優先されるのか
· どの程度実行可能か
· 顧客、市場、社会に対してどの程度意義があるか
を総合的に評価し、採用すべき戦略として位置づける。
したがって、本層は、価値提案の発想段階ではなく、採用すべき戦略としての提案価値を決定する層である。ここで初めて、経営レジリエンス戦略は、単なる可能性の列挙から、実際に組織が選択し、BCMS の方針・目的・戦略・計画へ反映すべき内容へと転換される。
4.4.7 反映層:信頼維持・向上と次期計画への反映
第七の層は、設計された提案価値が、顧客・市場・社会に対する信頼維持・向上にどのように寄与したかを評価し、その結果を次期の方針・目的・計画へ反映する層である。
ここで重要なのは、経営レジリエンス戦略を BCMS の外に置くのではなく、BCMS の Check および Act における評価・改善機構として位置づけることである。すなわち、BCP 演習や BCMS 運用の結果に対し、
· 顧客価値は守れたか
· 市場変化への対応力はあったか
· 社会的信用は維持・向上したか
· 提案価値は有効であったか
· 必要機能は適切に作動したか
を評価し、その結果を次の Plan へ返す。
4.5 理論モデルの運用構造
以上を運用構造として簡潔に表すと、次のようになる。
1. BCMS による基礎分析と継続・復旧能力の構築
2. 外部環境変化の再検証
3. RBV に基づく経営レジリエンス源泉の把握
4. 機能別活用分析による機能把握・機能転用・価値創造可能性の抽出、および実行可能性の検証
5. Effectuation、Lean、Agile による価値提案の構想・絞り込み・改善
6. 提案価値の設計と評価・採用判定
7. 信頼維持・向上の観点からの評価と、次期 BCMS 計画への反映
この運用構造において、経営レジリエンス戦略は、BCMS の Plan を置き換えるのではなく、BCMS の Check および Act において、価値提供の観点から運用・演習結果を評価し、その結果を次の Plan に反映する戦略的再検証機構として機能する。
4.6 理論モデルの意義
本研究が提示する理論モデルの意義は、少なくとも四点に整理できる。
第一に、RBV を導入することで、経営レジリエンスの源泉を理論的に説明できる点である。これにより、品質保証力、技能、関係資本、ブランド、ナレッジといった要素は、単なる「強み」ではなく、価値創出資源として位置づけられる。 ((Darden Ideas to Action, n.d.))
第二に、機能別活用分析を導入することで、提案価値の実行可能性を戦術レベルで検証できるだけでなく、既存資源の機能転用を通じた新たな価値創出の可能性を構想できる点である。
第三に、Effectuation、Lean、Agile を実践原理として導入することで、経営レジリエンス戦略を静的な設計図ではなく、不確実性の高い環境で構想し、絞り込み、改善し続ける動的な方法論として位置づけられる点である。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
第四に、BCMS の成果物を単なる復旧計画情報ではなく、価値提案へ接続可能な経営資源情報として読み替えることができる点である。これにより、BIA やリスクアセスメントの結果は、復旧設計だけでなく、価値設計にも活用される。
4.7 本章のまとめ
本章では、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証する枠組みとして、「経営レジリエンス戦略」の理論モデルを提示した。モデルは、
· BCMS 成果物
· 外部環境変化の再検証
· RBV に基づく経営レジリエンス源泉の把握
· 機能別活用分析による機能把握・機能転用・価値創造可能性の抽出
· Effectuation、Lean、Agile による実践原理
· 提案価値の設計
· 信頼維持・向上と次期計画への反映
の各層から構成される。
このモデルにより、従来の BCMS/BCP 実務で弱くなりがちであった「価値の次元」と「実行可能性の次元」が補強される。すなわち、経営レジリエンス戦略は、価値提案を構想するだけでなく、その源泉、機能転用、実践原理、改善ループまでを含む理論として整理された。
第5章 仮想企業ケースによる経営レジリエンス戦略の適用可能性検証
5.1 本章の目的
本章の目的は、第4章で提示した経営レジリエンス戦略の理論モデルを、理論モデルの適用可能性を検討するために設定した仮想企業ケースに適用し、その実務適用可能性を検証することである。対象とするのは、静岡市清水区に主要拠点を置く化粧品製造販売会社「坂本化粧品株式会社」を想定した仮想ケースであり、想定事象は南海トラフ巨大地震とする。
本章では、理論モデルの各層、すなわち BCMS 成果物、外部環境変化、RBV に基づく源泉把握、機能別活用分析、Effectuation/Lean/Agile による実践原理、提案価値設計、信頼維持・向上と次期計画への反映を、ケースへ順次適用する。
5.2 ケースの概要
坂本化粧品株式会社は、静岡市清水区に本社事務所、第一工場、第二工場を有する中堅の化粧品製造販売会社である。主要事業は、OEM 製造を中心とする事業部 A・事業部 B、自社ブランド通販事業から成る。年商は 8.5 億円であり、その大部分を OEM 向け売上が占める一方、自社通販は成長戦略上の重点に位置づけられている。主要販売先として、ホーラ化粧品、ジャクソン化粧品、高山薬局グループを持つ。従業員数は 45 人であり、主要原材料、容器、物流の一部は県外依存である。また、同社は ISO 22716 を取得しており、品質管理力を有している。
想定災害条件は、静岡市清水区で震度 6 強、清水区沿岸部において津波影響開始 2 分、最大到達 13 分である。静岡県の想定では、最大クラス地震・津波において広域停電、断水、通信障害、道路支障、避難者増大、生活支障が見込まれており、本ケースは拠点被害、参集制約、製造インフラ停止、サプライチェーン断絶、顧客対応停滞に同時に直面する複合的災害環境に置かれる。 ([pref.shizuoka.jp](https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/868/sizuokakendai4jijisinhigaisouteidainijihoukokunogaiyou.pdf?utm_source=chatgpt.com))
5.3 基礎層:BCMS成果物の整理
まず、BCMS の基礎成果物として、優先事業活動、必要資源、依存関係、時間要求を整理した。坂本化粧品の事業継続上の中心は、OEM 製品の供給維持、薬局向け供給、自社通販継続である。主要販売先の在庫日数は、ホーラ化粧品が平均 2 週間、ジャクソン化粧品が 1 週間、高山薬局グループが 3 週間であり、発災直後に即全面失注するわけではないが、1~3 週間の間に供給継続可否の説明責任が顕在化する構造にある。
必要資源としては、工場設備、水、電気、LP ガス、ボイラー、原材料、容器、物流機能、情報システムが挙げられた。通販個人情報は事務所サーバーに、製造マニュアルや検査情報は各工場 PC に保存されており、情報資産が拠点集中していることも確認された。
この段階で得られるのは、「何をどの資源でどの時間内に戻すか」という BCMS 本来の継続・復旧設計である。
5.4 再検証層:外部環境変化の把握
次に、PEST 分析および 3C 分析を通じて外部環境変化を再検証した。PEST 分析では、政治・行政環境として、災害時には人命、避難、ライフライン、物資供給が優先されること、経済環境として、需要変化以前に供給制約と物流支障が顕在化すること、社会環境として、顧客・地域社会が求める価値が「美容」から「保湿・皮膚保護・安心・生活維持」へ移行しうること、技術・インフラ環境として、水、電気、通信、情報システムへの依存が高いことが確認された。 ([pref.shizuoka.jp](https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/868/sizuokakendai4jijisinhigaisouteidainijihoukokunogaiyou.pdf?utm_source=chatgpt.com))
3C 分析では、OEM 先は供給継続可否、代替条件、品質保証を重視し、高山薬局グループは生活支援・衛生ケアの流通接点へ転換しうること、通販顧客は発送そのものより情報継続と誠実な説明を求めることが整理された。Company の分析では、品質管理力、複数チャネル、製品意味の再定義力が強みであり、情報集中、ライフライン依存、県外依存サプライチェーンが弱みであることが確認された。Competitor の分析では、震災後の競争優位が価格よりも説明責任、品質保証、価値提案の再定義へ移ることが示唆された。
この段階で、分析の問いは「どのように戻すか」から「変化した環境に対して何を価値として提示できるか」へ転換する。
5.5 源泉層:RBVに基づく経営レジリエンス源泉の把握
RBV の観点から、坂本化粧品の経営レジリエンス源泉を整理した。
有形資源としては、第一・第二工場、製造設備、一部支給容器、静岡市内調達可能な容器ルート、通販基盤等がある。
無形資源としては、ISO 22716 に裏づけられた品質保証への信頼、OEM 製造経験、ホーラ化粧品・ジャクソン化粧品・高山薬局グループとの関係、スキンケア製品知識、顧客との継続関係がある。
能力としては、品質保証能力、顧客説明能力、製品意味再定義能力、関係維持能力が抽出された。
ここで重要なのは、これを単なる資源一覧にしないことである。BCMS のリスクアセスメントと BIA の結果を踏まえると、水、電気、情報システム、物流などは大きなボトルネックであり、一部の資源は代替可能であっても災害時には十分に機能しない可能性がある。したがって、本ケースで問うべきなのは、そうしたボトルネックや代替不全を踏まえたうえで、なお何が価値提供の源泉となるかである。
その結果、本ケースの中核源泉は、
· 品質管理力
· 製品価値再定義力
· 関係資本
· 顧客接点の多層性
の四つに整理された。
つまり、設備や物流が制約されても、品質保証、製品知識、薬局チャネル、取引関係は、依然として価値提案の起点となりうる。
5.6 機能層:機能別活用分析
次に、機能別活用分析を用いて、これらの源泉がどのような機能を有し、その機能をどのように転用することで価値創造につながるかを検討した。
まず、品質管理力という源泉は、平時には「品質を担保した製造・出荷を行う機能」として働いている。この機能を使って、通常は OEM 製品の品質を維持して供給することができる。しかし災害後には、この機能は「顧客に対して安心を説明する機能」「限られた供給条件下でも信頼を保つ機能」へ転用できる。したがって、品質管理力は、単なる製造管理資源ではなく、安心価値・説明価値を創出する源泉となる。
次に、薬局チャネルとの関係という源泉は、平時には「店頭販売を通じて製品を届ける機能」を持つ。この機能は、災害後には「地域生活支援チャネル」「生活再建下の保湿・皮膚保護価値を届ける機能」へ転用できる。つまり、チャネルそのものではなく、そのチャネルが持つ到達機能が価値創造につながる。
また、製品知識・スキンケア知識という無形資源は、平時には美容用途の説明機能として用いられるが、災害後には「低刺激ケア」「生活支援」「肌トラブル予防」といった意味へ転用しうる。ここでは、製品そのものを変える前に、その製品が果たす機能の意味を転用することが可能である。
このように、本ケースにおける機能別活用分析は、
· 今ある資源がどんな機能を有しているか
· その機能を使ってどんなことができるか
· その機能をどんなことに転用できるか
· その転用機能で何ができるか、どんな価値を創出できるか
を明らかにするプロセスとして機能した。
そのうえで、後段として、
· その価値創出に必要な機能は何か
· どの機能がすでに存在するか
· どの機能が不足しているか
· どの機能は外部連携によって補完できるか
を点検した。
たとえば、高山薬局向け生活支援型価値を実装するには、商品再定義機能、品質保証機能、薬局向け説明機能、地域連携機能が必要であり、その一部はすでに存在するが、一部は強化や外部補完が必要となる。
5.7 実践原理層:Effectuation、Lean、Agile の適用
次に、Effectuation、Lean、Agile の実践原理を適用した。
Effectuation の観点からは、坂本化粧品が「何を失ったか」ではなく、「今ある資源と関係性から何ができるか」を起点に考えることが重視された。すなわち、品質保証能力、薬局チャネル、製品知識、既存 OEM 先との関係、静岡市内調達ルートといった現在利用可能な資源と関係性を前提として、提案価値の可能性を広げた。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
Lean の観点からは、広がった価値提案候補の中から、本質的価値に集中することが重視された。本ケースでは、
· OEM 先向け供給説明価値
· 高山薬局向け生活支援型スキンケア価値
を最優先案とし、
· 通販顧客向け情報継続価値
· 地域向け肌ケア支援価値
を条件付き案とした。
ここでは、すべての価値を同時に追うのではなく、限られた資源で最も意味のある価値へ集中することが Lean の働きである。 ((The Lean Startup, n.d.))
Agile の観点からは、提案価値を固定的に扱うのではなく、実行後の顧客・地域の反応を見て継続的に修正することを前提とした。たとえば、高山薬局向け提案は、店舗反応や地域ニーズに応じて訴求内容や供給形態を変更しうるものとして構想された。つまり、Agile は、価値提案そのものとその提供体制を変化に応じて調整する原理として機能した。 ((Agile Manifesto, 2001))
5.8 構想層:提案価値の設計と採用判定
以上を踏まえ、災害時 SWOT 分析とクロス SWOT 分析を通じて、提案価値を設計した。
その結果、
· OEM 先向け「供給説明価値」
· 高山薬局向け「生活支援型スキンケア価値」
· 通販顧客向け「情報継続価値」
· 地域向け「生活再建下の肌ケア支援価値」
の四案が抽出された。
ここで重要なのは、4.4.5 までで行ったのが「価値提案の可能性を作り出すこと」であり、4.4.6 に対応するこの段階で初めて「どの戦略を採用するか」を決定するという点である。
提案価値の評価・採用判定シートを用いて比較した結果、
· OEM 先向け供給説明価値
· 高山薬局向け生活支援型スキンケア価値
が最優先採用案とされた。
一方、
· 通販顧客向け情報継続価値
· 地域向け生活再建下の肌ケア支援価値
は条件付き採用案とされた。
この採用判定は、対象適合性、価値有効性、信頼維持効果、信頼向上効果、実行可能性、戦略適合性の観点に基づいて行われた。
5.9 反映層:信頼維持・向上と次期計画への反映
採用された提案価値を戦略整理シート及び戦略本文へ統合した結果、坂本化粧品の震災後戦略は、単なる工場復旧計画ではなく、
· OEM 先には「供給責任を説明する会社」
· 高山薬局には「生活支援型価値を提案する会社」
· 通販顧客には「情報を止めない会社」
· 地域社会には「肌ケア支援で役立つ会社」
として自らを位置づけ直す戦略であることが明らかになった。
この結果を BCMS 運用へ返す際には、
· 顧客価値は守れたか
· 市場変化への対応力はあったか
· 社会的信用は維持・向上したか
· 提案価値は有効だったか
· 必要機能は適切に作動したか
という観点から Check を行い、その結果を次の Plan へ反映する必要がある。
5.10 適用可能性の評価
本ケースを通じて、経営レジリエンス戦略の理論モデルは、少なくとも四つの意味で実務適用可能性を有することが確認された。
第一に、BCMS の成果物をそのまま活用しつつ、価値提供の観点から再解釈できる点である。
第二に、RBV によって品質保証力、関係資本、ナレッジ等を価値創出資源として整理できる点である。
第三に、機能別活用分析によって、提案価値の実行可能性だけでなく、既存資源の機能転用による価値創出可能性を検討できる点である。
第四に、Effectuation、Lean、Agile を通じて、不確実性の高い災害後環境においても、提案価値を構想し、絞り込み、改善する動的運用が可能になる点である。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
5.11 本章のまとめ
本章では、坂本化粧品株式会社の仮想企業ケースを用い、第4章で提示した経営レジリエンス戦略の理論モデルを適用し、その実務適用可能性を検証した。
その結果、
· BCMS による継続・復旧能力の整理
· 外部環境変化の再検証
· RBV による源泉把握
· 機能別活用分析による機能把握・機能転用・価値創造可能性の抽出
· Effectuation、Lean、Agile による実践的運用
· 提案価値の設計と採用判定
· 信頼維持・向上と次期計画への反映
という一連の流れは、実務上十分に展開可能であることが示された。
とりわけ、本ケースでは、BCMS によって「どのように戻すか」を整理したうえで、そこからさらに「誰に、何を、どのような価値として提案するか」を導くことができた。これは、経営レジリエンス戦略が、BCMS 実務の外側にある別理論ではなく、BCMS が本来持つ便益を、価値提供、信頼維持・向上、競争優位形成の観点から実務的に回収するための設計機構であることを示している。
第6章 結論
6.1 総括
本研究は、ISO 22301:2019 に基づく事業継続マネジメントシステム(BCMS)の実務が、事業継続能力の整備において有効である一方、その運用が業務オペレーションの継続・復旧に偏りやすく、「継続して製品・サービスを提供する」という要求に内在する価値の側面が十分に可視化されていないのではないか、という問題意識から出発した。ISO 22301 は BCMS の便益として、組織レジリエンスの向上、危機への体系的対応、利害関係者の信頼向上を挙げており、BCMSが単なる復旧手順の体系にとどまらないことを示している。さらに ISO 22336:2024 は、組織レジリエンスの方針と戦略の設計に関する指針を与えている。 ((ISO, 2019))
しかし、実務でBCMS/BCPを展開すると、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略、BCP、演習評価は、どうしても「何を止めず、何をどのように戻すか」という問いに収斂しやすい。その結果、インシデント発生後に顧客、市場、社会がどのように変化し、その中で製品・サービスがどのような価値として受け取られるのか、また自社が何を価値として再提示しうるのかという問いが、分析の中心から外れやすい。これに対し本研究は、BCMSの成果物を前提にしつつ、それらを価値提供の観点から再検証し、信頼の維持・向上へ接続する理論的枠組みとして、「経営レジリエンス戦略」を提示した。 ((ISO, 2019))
本研究で提示した理論モデルは、
8. BCMS成果物
9. 外部環境変化の再検証
10. RBVに基づく経営レジリエンス源泉の把握
11. 機能別活用分析による機能把握・機能転用・価値創造可能性の抽出
12. Effectuation、Lean、Agile による価値提案の構想・絞り込み・改善
13. 提案価値の設計
14. 信頼維持・向上と次期計画への反映
という七つの層から構成された。RBVは内部資源と能力から価値創出可能性を捉える理論的基盤を与え、Effectuationは今ある資源と関係性から可能性を広げる原理、Leanは本質的価値への集中、Agileは変化への適応と継続的改善を支える原理として位置づけられる。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
さらに、本研究は、震災後に再建した企業事例の分析を通じて、経営レジリエンスの源泉が、単なる設備復旧力ではなく、事業モデル転換力、高付加価値再定義力、人・技能・ナレッジ再起動力、関係資本活用力、社会的価値提案力、新用途・新商品創出力、地域存在意義再設計力等にあることを明らかにした。そのうえで、仮想企業ケースとして坂本化粧品株式会社を対象に理論モデルを適用し、BCMS成果物を出発点としながら、誰に何をどのような価値として提案するかを導き出せることを示した。このことから、経営レジリエンス戦略は、BCMSの外側にある別理論ではなく、BCMSが本来持つ便益を、価値提供、信頼維持・向上、競争優位形成の観点から実務的に回収するための設計機構として理解できる。
6.2 理論的意義
本研究の第一の理論的意義は、BCMSと経営戦略のあいだに存在していた理論的空白を埋めようとした点にある。ISO 22301 は、BCMSの便益として戦略目標の支援、競争優位性、評判・信用の保護・強化、利害関係者信頼を含意しているが、それらの便益を、BCMSの成果物からどのように具体的に回収するかについては、規格そのものは詳細な方法論を与えていない。そこに対して本研究は、BCMSの成果物を価値提供の観点から再解釈し、経営的成果へ接続する中間理論として、経営レジリエンス戦略を提示した。 ((ISO, 2019))
第二の理論的意義は、災害後再建企業の事例を、単なる成功事例の叙述としてではなく、価値提案の再構成という共通の論理で読み直した点にある。これにより、被災後の企業が生き残る要因を、施設復旧や操業再開の問題に還元せず、価値基準の再定義、顧客接点の再構成、関係資本の活用、社会的役割の再提示といった共通構造として抽出することができた。このことは、災害復興研究とBCMS研究のあいだに橋を架ける試みでもある。
第三の理論的意義は、RBVと機能別活用分析を導入することにより、経営レジリエンスの源泉を内部資源論の立場から説明しつつ、それがどのような機能転用を通じて新たな価値創造へつながるかを示した点にある。これにより、本研究は「資源がある」ことと「価値が創れる」ことを区別し、そのあいだに機能という媒介を置く構造を提示した。さらに、Effectuation、Lean、Agile を補助理論として組み込むことにより、理論モデルを静的設計図ではなく、動的運用を前提とした方法論へ拡張した。 Effectuation は「手元の手段から始める」ことを重視し、Lean Startup は実験と学習を通じた仮説検証を重視し、Agile は変化への対応と継続的価値提供を重視する。 ((UVA Darden School of Business, n.d.))
6.3 実務的意義
本研究の第一の実務的意義は、従来の BCP 支援や BCMS 支援が、業務オペレーション復旧中心に偏りやすかったことに対し、顧客、市場、社会に対する価値提供という観点を、分析・評価・戦略構築・演習見直しのサイクルへ組み込む実務フレームを提示した点にある。これにより、BCMS は単に「止めない・戻す」ための仕組みではなく、「価値を守り、高める」ための仕組みとして再構成されうる。
第二の実務的意義は、企業支援の場面において、BIA、リスクアセスメント、事業継続戦略、BCPの成果物を、あらためてゼロから作り直すのではなく、価値提供の観点から再検証することで展開できる点にある。これは、既存のBCMS支援と対立せず、むしろその延長上に位置づけられるため、支援現場への導入可能性が高い。
第三の実務的意義は、機能別活用分析を通じて、既存資源の機能転用から新たな価値創造可能性を発見できる点にある。たとえば、バス会社であれば、バス車両という資源が持つ輸送機能や空間提供機能を、人の運搬以外へ転用することで、避難支援、物資輸送、待機場所提供などの社会的価値提案へつなげることができる。このような発想は、従来のBCPでは十分に扱われにくかったが、本研究の枠組みでは中心的テーマとなる。
第四の実務的意義は、経営レジリエンス戦略を BCMS の Check および Act における評価・改善機構として位置づけたことである。これにより、演習や運用の結果を、
· 顧客価値は守れたか
· 市場変化への対応力はあったか
· 社会的信用は維持・向上したか
· 提案価値は有効であったか
· 必要機能は適切に作動したか
という評価観点で検証し、その結果を次の Plan へ反映するサイクルが成立する。ISO 22301 は BCMS の継続的改善を要求し、ISO 22336 はレジリエンス方針・戦略の設計と優先順位づけを扱うことから、この位置づけは実務上も整合的である。 ((ISO, 2019))
6.4 研究の限界
本研究には、いくつかの限界がある。第一に、本研究は理論構築と質的事例分析を中心としており、定量的検証を伴っていない点である。したがって、提示した理論モデルが、どの程度普遍的に適用可能であるか、またどの構成要素が実務成果に最も強く寄与するのかについては、今後の実証研究が必要である。
第二に、本研究で用いた再建企業事例は、主として東日本大震災及び熊本地震に関連する公開資料に依拠しており、事例数も限定的である。そのため、他産業、他規模、他国の事例へどこまで一般化できるかについては慎重な検討が必要である。
第三に、本研究では、経営レジリエンス戦略を BCMS の Check および Act に重点的に接続する構造を採ったが、実際には方針、目的、戦略、計画、演習のすべての段階において価値提供の視点がどのように埋め込まれるべきか、さらに精緻化の余地がある。とりわけ、5.2 の事業継続方針や 6.2 の事業継続目的との関係は、今後さらに制度設計的に整理する必要がある。
第四に、RBV、機能別活用分析、Effectuation、Lean、Agile を補助理論として導入したが、それぞれの理論の境界と役割分担を、さらに厳密に整理する余地がある。特に機能別活用分析については、本研究において「既存資源の機能転用による価値創造可能性を検討する補助的戦略構築手法」として定義したが、今後はこの概念自体を独立に精緻化する必要がある。
6.5 今後の課題
今後の課題として、第一に、経営レジリエンス戦略の理論モデルを複数の実在企業に適用し、業種、規模、地域特性に応じた差異と共通性を検証することが必要である。たとえば、製造業、運輸業、小売業、福祉・医療関連業などで、どの源泉類型や機能転用が有効に働くかを比較することが考えられる。
第二に、提案価値の評価・採用判定に関する指標をさらに具体化し、実務上使いやすい評価シートへ落とし込むことが求められる。とりわけ、信頼維持・向上、社会的価値、競争優位形成をどのような観点で定性的・定量的に捉えるかは、今後の重要課題である。
第三に、機能別活用分析をより体系化し、資源機能、転用可能性、価値創造、外部連携補完までを一体的に扱う分析シートとして整理する必要がある。これは、実務への導入可能性をさらに高めるうえで重要である。
第四に、BCMS の方針、目的、事業継続戦略、BCP、演習、レビューへ、経営レジリエンス戦略の価値基準をどのように段階的に埋め込むかを、より詳細に制度設計する必要がある。これにより、BCMS と経営レジリエンス戦略の関係性は、より明確かつ運用可能なものとなる。
第五に、ISO 22336:2024 をはじめとする組織レジリエンス関連規格や実務指針との関係をさらに整理し、本研究の理論モデルを、国際規格群の中でどのように位置づけるかを明確にする必要がある。 ISO 22336 は、レジリエンス方針と戦略の設計、優先順位づけ、協調能力の確立に関する指針を与えているため、本研究との接点をさらに掘り下げる余地が大きい。 ((ISO, 2019))
6.6 結語
本研究は、BCMS/BCP 実務において見落とされやすかった「価値の次元」を明示的に取り出し、BCMS の成果物を価値提供の観点から再検証する理論的枠組みとして、経営レジリエンス戦略を提示した。これは、BCMSを否定するものではなく、BCMSが本来持つ便益、すなわち組織レジリエンス、戦略目標の支援、利害関係者の信頼、競争優位、評判・信用の保護・強化を、実務上より具体的に回収するための補完的設計機構である。 ((ISO, 2019))
企業が真に生き残るためには、単に業務オペレーションを復旧するだけでは十分ではない。変化した顧客、市場、社会のなかで、自社が何を価値として再提示できるのか、どのような信頼を維持・向上できるのかを問い直し、その問いを具体的な戦略と計画へ落とし込む必要がある。本研究が提示した経営レジリエンス戦略は、そのための理論的出発点である。
参考文献・参照資料
15. ISO 22301:2019(en), Security and resilience(https://www.iso.org/obp/ui/en/)
16. ISO 22301:2019(en), Security and resilience(https://www.iso.org/obp/ui/es/)
17. ISO 22301:2019 - Business continuity management systems(https://www.iso.org/standard/75106.html)
18. ISO 22301 Business continuity management(https://www.bsigroup.com/LocalFiles/en-HK/iso-22301/ISO-22301-Mapping-Guide-web.pdf)
19. 産業復興支援 事 例 集(https://www.reconstruction.go.jp/files/user/topics/main-cat4/sub-cat4-1/20210318_seisakuchosakanjireisyuu.pdf)
20. 被災地での55の挑戦 -企業による復興事業事例集 Vol.2-(https://www.reconstruction.go.jp/files/user/topics/20140422_hisaichi55vol2_all.pdf)
21. 地域に愛される”企業を目指す「株式会社松島蒲鉾本舗」 | 取組 ...(https://j-net21.smrj.go.jp/special/vibrant/20240422.html)
22. 震災乗り越え、事業承継を一気に加速「株式会社ささ圭 ...(https://j-net21.smrj.go.jp/special/succession/19081401.html)
23. 平成28年熊本地震 地元企業の事例紹介(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai29/siryo3_2.pdf)
24. Be a Great Small | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト](https://j-net21.smrj.go.jp/special/vibrant/index.html)
25. Effectuation - Overview(https://www.darden.virginia.edu/effectuation)
26. Effectuation Collection | Darden Ideas to Action(https://ideas.darden.virginia.edu/effectuation-collection)
27. The Lean Startup | Methodology(https://theleanstartup.com/principles)
28. Principles behind the Agile Manifesto(https://agilemanifesto.org/principles.html)
29. ISO 22336:2024 - Security and resilience(https://www.iso.org/standard/50073.html)



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